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馬祖・南竿島のタクシードライバーと半日同行

›11 13, 2006

matzu driver

台湾、馬祖列島南竿島のタクシー会社に勤務する妻子もちのドライバー。島民よりも徴兵されてこの島に来ている軍人の方が多いというこの島において、このドライバーは馬祖で生まれ馬祖で育ったのだそうだ。
彼は左手親指の第一間接が無い。そして彼は左利き。ドライバーにとってとても不利であるのだが、ハンドルに取っ手をつけ、その取っ手を手の平で押さえ、ハンドルを回す。ドライバー魂というのではなく、この島ではタクシー運転手である事が、多くはないにしろ安定した収入を得る少ない選択肢の一つなのだ。

島に朝到着した。昼前、南竿島最大の集落、連江縣の県庁である山隴でタクシーに声かけられる。そのドライバーは僕に島を案内してやるという。観光したい所をまだ決め兼ねていた僕は、ついつい彼の提案を受け入れてしまう。

僕はタクシーに乗せられ、島にある観光案内センターで島を紹介するビデオ(日本語版!)を見たり、幾つかの観光名所を、ドライバーと伴にめぐった。彼は日本語は当然、英語も一切喋れない。僕が台湾語を話せないのを知りつつも、熱心に台湾語とボディーラングリッチで案内してくれた。おそらく何か喋りながらでないと、ジェスチャーして伝えれなかったのだろう。

タクシーに乗って間もない頃、彼は色んな家の前に止まり、何か筒状の物を、敷地の中へ向けて投げ込んでいた。何をしているのかと聞いたところ、新聞(馬祖日報)を配達しているという。タクシー運転手のかたわら、新聞配達もしているのかと歓心もしたが、車の外へ出るのが面倒なのだろう、車内から新聞を投げつけるだけのその乱暴な配達の仕方に唖然とした。

僕は助手席に座って次の目的地まで外を眺めている。不意に無線が反応し、ドライバーが応答する。無線機の向こう側から台湾語ではないような言葉が送られてきて、ドライバーが台湾語で送り返す。後で分かったのだが、彼は島のタクシー会社に勤めていて、この無線は会社からの指示だという。
この無線での通信が終了したあと、タクシーは180度Uターンし進路を変える。僕はなぜUターンする意味が分からず、そのまま助手席で成行きを見ることにする。すると前方から軍服を着た兵士達が、このタクシーに手を振っている。タクシーは彼らの前で止まり、乗車させる。後ろの座席が軍人でうまる。車内の空気が緊張したように思えたのは僕だけだろう。軍人達はドライバーに行き先を告げ、車は動き出す。道中、ドライバーは軍人達に僕の事を説明する。たぶん「ココ(南竿)に観光しにきた日本人だ」なんて事を言ったのだろう。彼らの「へー」という様な表情で僕を眺める。タクシーは彼らの目的地に到着し、彼らはお金をドライバーに払い、降りていった。
島全体が軍の基地の様なこの島で、島内に点在している施設間の移動で、兵士達が日常的にタクシーを使っている。島のドライバーにとって軍人達は、最も優先すべきお得意さまなのである。そのせいで、何度も僕の目的地が近づいたり、遠のいたりした。

stop / military base roof

昼食時になり僕はドライバーから、彼の家族と一緒に食事をしないかと誘われ、途中彼の妻、そして小学生と中学生の娘二人を今乗っているタクシーでそのまま拾い、その近くの食堂に入った。
食堂は、六人がけくらいの丸いテーブルが4、5個並ぶ程度の広さの店で、民宿も経営しているという。僕らは昼休み中の軍人達が食事しているテーブルを通り過ぎ、奥のテーブルに着く。席につくやドライバー、この場では父親である彼が一切の料理の注文を決めた。家族とテーブルを挟み、ようやくドライバーと落ち着いて色々話ができると思っていたが、英語も日本語も話せない事を思い出した。すると父は、中学校で英語の教育を受けている娘を介して僕と話をする事になり、初めてお互いの情報を交換することができた。父親は娘の頭の良さを誇らしそうにしていた反面、自分自身でコミュニケーションが取れない悔しさもあるように見えた。

昼以降もこのドライバーと行動を共にした。雨が降り出し気温が下がる。2月の台北はとても暖かくコートはいらない。しかしこの馬祖は緯度が沖縄本島とあまり変わらないにも関わらずとても寒かった。Tシャツ一枚の僕は震えていた。するとドライバーが、彼自身着ていた迷彩柄の帽子、ジャンパー、そして手袋を僕に与えてくれた。台湾の辺境ですら台湾人は親切だと思った。

そして馬祖観光の終わりがやってくる。その日の夕方の飛行機で台北に帰る僕は、ドライバーに空港へ行くようにと、最後の目的地を告げた。空港に到着し、ドライバーと別れる間際、助手席から彼の写真を撮らしてもらう。謝謝と言いタクシーを降り、空港内の待合ロビーへ向う。ベンチに腰を下ろすやいなや、隣にドライバーが座ってきた。何か言ってきたが、結局最後の最後まで何言っているのか分からなかった。たぶん飛行機が飛ぶまで見送ってやろうという事だったと思う。その見送りの意味は、天候不良で、飛行機が飛ばない事を期待していたのかもしれない。明日も僕を乗せてタクシー代を貰おうという魂胆だったかもしれない。そう思う理由として、ドライバーは何度も航空会社職員に何かを聞いていた。
結局、ドライバーの思惑ははずれ、僕は登場ゲートへ向う。振り返るとドライバーが手を大きく振っていた。

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